「オハイ」という名所をご存じだろうか。オハイとは知る人ぞ知る三重県の秘境である。片道2時間半の登山道を歩いて行く絶景スポットで、岩場から見る海は透き通った宝石のような美しさだ。

 筆者は2021年と2022年の12月に2年続けてオハイを訪問した。2度目に訪れたとき、オハイを訪れる人が格段に増えていることを感じた。その日は曇り空であったにもかかわらず、1年前に比べたくさんの登山者たちで溢れかえっていた。

 この記事では近年注目度が上がっている、三重県の秘境「オハイ」の魅力とおすすめルートを登山歴9年の筆者がレポートする。 

■絶景の秘境「オハイ」とは

オハイの断崖絶壁の場所を覗いてみた

 オハイとは三重県尾鷲市(おわせし)九鬼町(くきちょう)にある海の見える絶景スポットである。「大配(おはい)」とも書き、元々は船で釣りを行う絶好の漁場だったが、近年地元有志によって登山道が整備され、歩いて行けるようになったことで知名度が増してきた。数年前からはSNSでの投稿が話題を集め、2020年12月にはNHKの情報番組『あさイチ』でも“謎の絶景”として紹介された。

 オハイのある尾鷲市は三重県南部にある古くから漁業や林業が盛んな町である。雨の多い地域としても知られ、年間の平均降水量が3,848.8mm、黒潮の影響により比較的温暖な場所で、冬場でも滅多に積雪しない。オハイは標高約397mの「頂山(いただきやま)」の麓に位置しており、空気が澄む寒い季節に行くのがおすすめである。

リアス海岸の様相を呈するオハイ

 「秘境」と呼ばれるオハイは、海岸線が複雑に入り組んだ三重県のリアス海岸の中にある。海岸付近の斜面は急で、山が海に直接迫っているため水深も深い。オハイにある断崖絶壁の場所から海の底を眺めてみると水深の深さが窺えるであろう。

 オハイの魅力はその海の色にもあり、透き通ったコバルトブルーの海は「オハイブルー」とも呼ばれる。この絶景を見るために、全国から多くの登山者がやってくるのだ。

 オハイブルーを見るには、太陽の光が差し込んで海の透明度が高い午前中がおすすめ。午前中にオハイに到着できるように逆算して登山を開始しよう。

■オハイまでのおすすめルート

頂山・オハイの概略図。国土地理院地図を元に作図(作成:兎山 花)

 次にオハイまでのおすすめルートを紹介しよう。今回おすすめするのは登山口のある九鬼の漁村から頂山を経由し、途中、熊野灘の大展望がある「ハカリカケ岩」に立ち寄り、オハイへと向かう周回ルートである。

 車は九鬼コミュニティセンター奥の旧九鬼中学校前に駐車できる。九鬼中学校は2009年に閉校しているため、校舎前が駐車場として無料開放されているのだ。

 九鬼コミュニティセンター近くの登山口から、まず頂山の山頂を目指そう。登山口から1時間ほど登ると林道にぶつかる。林道を越えてしばらく進むとルートが右(Aコース)と左(Bコース)に分かれる。Aコースは山頂近くまで直線的に尾根を登る直登コースである。Bコースは頂山の北斜面を迂回しながら登っていくコースだ。どちらのルートを選んでもほぼ同じ時間で山頂に到着するので好きなコースを選ぼう。ちなみに筆者たちは急登のAコースを選んだ。林道から山頂までは40分ほどである。

眺望がない頂山の山頂

 頂山の山頂には三角点と「山は海の恋人」と彫られた木製オブジェが立っているだけで眺望がない。海の眺望を見るには、山頂から20分ほど進んだところにある「ハカリカケ岩」からの展望がおすすめである。

 山頂から「ハカリカケ岩」と書かれた道標に従い10分ほど歩くと分岐に出る。中道方面に下るとオハイ方面に行くが、まずは分岐からハカリカケ岩を目指そう。分岐から10分ほどで、岩を真っ二つに両断された形のハカリカケ岩に到着だ。そこから見える熊野灘の大展望は圧巻である。

頂山山頂にある「『山は海の恋人』」と書かれているオブジェ