スキー場のベースにある宿は珍しくない。しかし、リフトやゴンドラで斜面を昇った先、つまりは、“ゲレンデのど真ん中”にある宿は数える程しかない。周囲は360度の雪山の世界。そこでは、特別な夜と朝が待っている。

■雄大なる北アルプスの懐に抱かれる「八方池山荘」(長野県・八方尾根スキー場)

●標高1,850mの山の上で一晩を過ごす

 白馬八方尾根は、多彩なコースと上質な雪を誇る日本を代表するスキー場の一つである。その条件のよさから、コロナ禍以前は、「ここは外国か? 」と思えるほど多くのインバウンドが集まっていた。

 そこで索道の要になるのが、白樺ゲレンデのベースから延びる「ゴンドラリフト『アダム』」だ。これに乗れば一気に標高1,400mの地点までアクセスできる。

魅力的な被写体が目の前に。写真が好きな人には堪らない環境だ

 しかし、ビッグゲレンデは奥が深い。ゲレンデ山頂は、そこからアルペンクワッドリフト、グラートクワッドリフトという2本のリフトで昇った先なのだ。

 「八方池山荘」はその標高1,850mの地点にある。当企画のタイトルは「ゲレンデのど真ん中に泊まる」だが、「八方池山荘」に限っては、“ゲレンデのてっぺん”が正しい。

八方池山荘

 その歴史の始まりは1964年に遡り、登山者のための国民宿舎として建設された。当初の営業形態についての記録は残ってないが、少なくとも40年以上前には山小屋として営業されていたとされる。

 索道環境が今ほど整備されていなかった時代を経て、80年代にゴンドラと2本のリフトでアクセスできるようになった。

 唐松岳、五竜岳などへの登山の玄関口であるため、冬季も登山者が宿泊者のメイン。他には、崩沢、唐松岳でのバックカントリー目的の人、山小屋の雰囲気を愛するスキーヤー、スノーボーダー、また、朝の絶景を目当てに一眼レフカメラを持った人などが宿泊する。

バックカントリースキーの拠点としても利用価値大なのだ

 東側が開けているロケーションで、天気がよければ長野市街地までが見渡せる。早朝はそこが雲海に包まれることも珍しくない。また、早起きすれば、息を飲むような美しさの“ご来光”を堪能できる。西側には、朝焼けに染まる白馬三山、五竜岳、鹿島槍岳がそびえている。

 館内に入浴施設はあるが(※)、山小屋なので個室はない。個室がないからこそ、共有スペースで、性別を問わず、いろいろな経験を持つ、いろいろな年齢の人たちとの会話が自然に生まれる。それも貴重な体験となる。(※冬季は使用できない場合もある)

相部屋で雑魚寝もたまには悪くない

 八方尾根では、パトロールが斜面をチェックするまでは滑れないので、“ご来光を見ながらの滑走”は不可。だとしても、ここでしか味わえない特別な朝が値千金であることは、アイコン写真を見れば明らかだろう。

 リフトでアクセスできる便利さがあるため、八方池山荘は山小屋初体験の人に向いている。たとえば、白馬に何泊かするなかで1泊だけここに泊まるというプランもアリだ。大きな荷物は、クルマの中や、ゴンドラ乗り場のロッカーに置いておけばいい。

12月中旬ぐらいから周囲は雪山の風情に