庭先から響く「ギャーッ!」という声に何事かと思い駆けつけると、タイルの上を赤いダニが走り回っていました。今年もこの季節がやって来たのです。毎年、虫が苦手な人を恐怖に陥れる無数の赤いダニ集団。ダニといわれるとちょっと引く人も多いでしょうが、その生態を知ると意外とかわいく見えてきますよ。

■意外と縁起がよさそう! 「タカラダニ」

全身赤一色の特徴のある姿。昆虫ではない証拠に足は8本です
我が家のような猫の額ほどの庭先のタイルにも毎年現れます

 毎年、5月から6月にかけて、コンクリート製の壁や門扉など、屋外の建築物に大量に発生する赤いダニに悩まされている方も少なくないと思います。このダニは、タカラダニの仲間で「カベアナタカラダニ」といいます。ダニの名前に「宝」が付くなんて不思議ですね。夏にセミなどの昆虫採集をすると、赤いダニがついていることがあります。それを見た子どもが「セミが宝をつけている」と喜んだことからその名が付いたという説があるようです。ダニを気味悪がるのではなく、宝として肯定的にとらえる子どもたちのセンスには頭が下がります。

落ちていた野菜くずにいたタカラダニ。花粉以外の微小な有機物も食べているのかもしれません

 このタカラダニは、初夏の一時期に大量に発生しますが、6月頃になると全く姿を見なくなるという期間限定で、人間の血を吸うこともない無害な生き物です。餌は、主に花粉ではないかと言われています。空中から落ちてきた花粉を探すために、あんなにせわしなく走り回っているのでしょうか。

■なんとオスは存在しない不思議な生態

この2匹は、兄弟でしょうか。クローンによる全く同じコピーなのかも

 それにしても、どうやってあんなに大量のタカラダニが発生してくるのでしょうか。実は、タカラダニは、メスしか見つかっていません。進化の過程で、オスと交尾をすることを放棄し、メスだけで卵を産んで子孫を残すことを選択したようです。オスを探す必要がないのですから、繁殖に必要なエネルギーも少なくてすみます。クローンのような不思議な繁殖術で子孫を残すタカラダニ。その生態は、今でもまだ詳しくは明らかになっていないようです。