今回筆者が訪れたのは、栃木県那須町にあるトラウト(マス)専門の管理釣り場「つれないつり掘つり天国」(以下つれないつり掘)。ルアー&フライの管理釣り場の激戦区として知られる栃木県で「つれないつり掘」というある意味、商売を放棄したかのようなユニークなネーミングで営業するこの釣り場に興味を惹かれたのだ。

 いったいどんな理由があってこのような名前にしたのか、オーナーに直接話をうかがってきた。そして何より気になるのは「魚は釣れないのか? 釣れるのか? どっちなの?」という「つれないつり掘」の核心部についても実際に釣りをして調査してきたので、ぜひ最後まで目を通していただきたい。

■釣り場名は、オープン前のある出来事が原因だった

終始笑顔で話してくれた釣り場オーナーの秋元さん

 「ほんとうに釣れなくてさぁ、もう頭に来ちゃったんだよ!」

 施設の名前の由来についてそう話してくれたのは、釣り場のオーナーである「秋元」さん。ホームページでは自身を「頑固おやじ」と書いていたため、ちょっと気難しくて怖い人を想像していたが、とても物腰の軟らかい昭和イケメンのお父さんだ。

 釣り場がオープンする前、池の工事が終盤に差し掛かった頃に、試験的に池にマスを放流してみようという話になった。するとどこから情報を聞きつけたのか、見知らぬ釣り人がやってきて、魚を釣らせて欲しいと懇願され、許可したのだという。放流されたばかりの無垢な魚たちは、フライ(毛鉤)を疑うことなく口にして次から次へと釣れたそうだ。

 釣りの経験がほとんど無かった秋元さんは、そんなに簡単に釣れるのならと自分も試してみたところ、まったく釣れなかった。その後もたびたびやってくるフライフィッシングの釣り人は簡単に釣るのに自分にはまったく釣れない。あまりの貧果に頭にきた秋元さんは、ある文字を板に書いて池の前に掲げた。

 「つれないつり掘」という秋元さんの心情をそのまま書いたものだった。知人や関係者たちはこれを見て大いに盛り上がった。気をよくした秋元さんは、音の響き、語呂の良さから、施設名を「つれないつり掘つり天国」として、平成13年に管理釣り場をオープンした。

 前職では炭火で焼いた川魚(ヤマメ、イワナ、ニジマス、アユなど)を観光客にふるまうプロの焼き魚職人であった秋元さんだが、魚を釣るのはまったくの素人。施設名の由来はそんな秋元さんらしいとてもユーモラスなものだったのだ。

3号池の北側からみたレストハウス

■自然豊かな広大な敷地でのんびり釣りが楽しめる

釣り場は3500坪もの広大な敷地の中にある

 「つれないつり掘」は日本屈指の観光地である那須高原にある。那須高原というと多くのテーマパークやゴルフ場、ショッピングモールなどが立ち並び、観光客の絶えない賑やかな場所を想像するかもしれないが、釣り場周辺はわずかに別荘地があるだけで、森と畑が広がる田舎の風情が感じられるとても静かな場所である。

 筆者が訪れたこの日はたまたまなのか、釣り場の大きさの割りにはお客さんの数が若干少ない印象を受けた。オーナーの奥様によれば「お客さんが多すぎると困るのよ!」とのこと。もちろんお客さんがまったく来ないのは問題だが、多すぎても対応しきれないので10人前後がちょうど良いと話す。この商売っ気の無さがなんとも潔く微笑ましいではないか。

 多数のアングラーで賑わう釣り場は、落ち着かないので苦手だという人や、釣りに集中したい人にとってはまさに理想的な釣り場といえるだろう。

■放流魚は、釣り人が憧れる「林ブランド」

林養魚場の魚は、引きヨシ、味ヨシ、見た目ヨシの三拍子揃った釣り人の憧れである

 「つれないつり掘」で泳ぐ魚はすべて近隣にある「林養魚場(はやしようぎょじょう)」から仕入れたもの。林養魚場は国内で最古参の老舗養魚場で、ここで育てられた魚は「引きヨシ(釣れた時の引きが強い)、味ヨシ(味が美味しい)、見た目ヨシ(まるで天然魚のような綺麗な魚体)」の三拍子が揃った、トラウト派の管理釣り場愛好家のあいだでは大人気のブランド魚である。ちなみに「つれないつり掘」で泳ぐ林ブランドの魚は、スチールヘッドとドナルドソン(どちらもニジマス系)である。

 その味の良さからホテルや料亭からの引き合いも多く、コロナ禍明けの現在は値段も跳ね上がり仕入れの難しい魚だと聞く。もし釣りあげた際には、家に持ち帰って食べてみるといいだろう。赤身のとても美味しい魚である。

 ちなみに「つれないつり掘」には大きな池が3つある(1~3号池)。50㎝を超える大型魚がたくさん泳ぐ1号池はキャッチ&リリース専用池なので、魚の持ち帰りは禁止されている。2号池と3号池(ともに40㎝前後の魚が多く放流されている)に関しては釣り場のルール(匹数制限)の範囲内で魚の持ち帰りが可能(ただし生きたままの持ち帰りは厳禁)なのでよく覚えておこう。