2023年は山での事故を多く耳にする。悲惨な事故を知ると同じ登山者として胸が痛み、身につまされる思いだ。

 ひとつの重大事故の背後には、小さな「ヒヤリハット」が数多く存在するという。小さな危険事案を知り、予測して回避することが、安全な山行につながるのだ。

 山での危険な行動といえば、軽装での弾丸登山や初心者のマナー違反をよく耳にする。しかし、実は中級者向けのコースや、テント泊の装備を背負ったベテラン登山者(のように見受けられる)人たちが、ゾッとする危険な行動をすることも時々あるのだ。

 今回は筆者が実際に山で遭遇した、すれ違い時の「ゾッとする」ベテラン登山者の言動をお伝えしたい。自身の行動を振り返り、注意喚起になればと願っている。

 登山道でのすれ違いで基本的なルールといえば、「登り優先」で、止まる人は山側に避けること。そして登山者同士あいさつをすることだ。基本的なマナーを踏まえたうえで、実際に目にした「ゾッとする登山者」を、筆者が感じた危険レベル★1~3でまとめた。

■危険レベル★ 「登り優先は絶対!」頑固ハイカー

燧ケ岳の登山道。多くのハイカーでにぎわっていた(撮影:穂高カレン)

 数年前に訪れた真夏の尾瀬・燧ケ岳(ひうちがたけ)。暑さと急登で息を切らしながら登っていると、すれ違いの男性が登山道を下ってきた。

 男性は道端に避けて道を譲ろうとしてくれていたが、私が「少し休みたいのでお先にどうぞ」と声をかけたところ、「山では登り優先ですから」と拒否されてしまった。「きつくて本当に休みたいので、お先に行ってください」とお願いしたが、男性は「山のルールだから。それに若いんだからもっと歩けるでしょ」と言われてしまった。

 これ以上頼んでも、聞いてくれないと思い、結局、待っている男性にお礼を言って、力を振りしぼり先へと進んだ。すれ違いの直後に立ち止まって息を整えたのは言うまでもない。体力やペースは他人が決めつけるものではないだろう。

 「山では登り優先」は基本のルール。しかし時には、臨機応変さも求められるのではないかと実感した出来事であった。相手の体調や状況を見て、まわりに配慮できる柔軟なハイカーでありたい。

■危険レベル★★ 「急いで!」自分の時間優先ハイカー

狭い岩場や尾根でのすれ違いは特に注意が必要だ(撮影:穂高カレン)

 すれ違いの際、登山者同士でのあいさつは欠かせないマナーだ。道を譲ってくれた相手に対し「ありがとうございます」などとお礼を言うのは基本的なことだが、その際、譲った側は「お気をつけて」や「ゆっくり行ってください」などと声をかけるシーンをよく目にする。心がほっこりする、筆者お気に入りの瞬間だ。

 南アルプス・北岳の山頂付近での出来事。こちらは計10人のガイドツアーで参加し、岩場を登っていると、狭い尾根で、下山者に譲ってもらうことに。止まってくれている下山者たちにお礼を言いながら慎重に歩いてると、待っている男性の1人から「君たち人数が多いんだから早く、急いで!」と語気強く言われて、驚いた。

 もちろん待たせているので極力急ぐつもりではあったが、慌てて足を滑らせたり、岩を踏み外したりしたらどうするのだろうか。狭い場所で、落ちたら大けがを負うリスクが十分にある場所だった。

 男性はバスや電車の時刻などを気にして、急いでいたのかもしれない。少しでも早く進みたい気持ちもわからなくはないが、紅葉シーズンや人気の山では混みあって、思うようなペースで進めないことも頻繁にある。

 時間に余裕を持った登山計画を立てることが、相手を焦らせず、紳士的で思いやりのある行動につながると感じた。