私たちが暮らす日本は、国土の約3分の2が森林です。OECD 加盟国(※OECD=経済協力機構)の中では、日本はフィンランド、スウェーデンに次ぐ第3位の森林率を誇っています。豊富な森林のお陰で、登山やトレイルランニングなどのアクティビティを楽しむことができたり、山でろ過された綺麗な水が育む美味しいお米や野菜を食べることができています。

 そこにあるのが当たり前のように感じる山ですが、山の整備についてはあまり知られていないように思います。誰がどのように荒れた山道を復旧しているかご存知でしょうか。私たちに多大な恩恵を与えてくれている山を未来に残すため、自分たちでできることを実践している団体や組織が存在します。

 今回、11月に長野県下高井郡木島平村で開催された「奥信濃トレイル保全ワークショップ」と、長野県飯山市で開催された「全国トレイルメンテナンスシンポジウム」に参加してきました。

 日本の大切な資源である山について、皆さんが考えるきっかけになれば幸いです。

■奥信濃で行われているトレイル保全の取組み

 北陸新幹線の飯山駅より車で約15分の木島平村は、長野県の北部に位置しています。村の約81%を森林が占める木島平村では、キャンプ、登山、トレイルランニング、ウィンタースポーツなど、多くのレジャーやスポーツを楽しむことができます。また、村内にあるカヤの平高原には、“日本一美しいブナの森”と呼ばれる森があり、そのブナの原生林で磨かれた水で作られた木島平産のコシヒカリは、国際的なコンクールで金賞を受賞するほど評価されています。

 木島平村では、村を舞台にした100kmのトレイルランニングレース「奥信濃100 」を開催しています。「奥信濃100」は、2021年8月に初めて開催され、コロナ禍で苦しむ宿やスキー場、活躍の場を失ったランナーたちを元気づけるべく、トレイルランナーの山田琢也さんが企画した大会です。観光資源が豊富で、魅力あふれる奥信濃を多くの方に知ってもらうために、また100年先も楽しんでもらえる場所にするために、山田琢也さんを中心にトレイルの整備や保全活動を行っています。

講演をされる山田琢也さん

 今回の「奥信濃トレイル保全ワークショップ」では、北杜山守隊(ほくとやまもりたい)の代表理事で登山家の花谷泰広さんをゲストに、講演とワークショップが行われました。人が増え過ぎた登山道は植生がなくなり土がむき出しになり、そこが雨の通り道となり、流水により道が侵食され、さらにその道を避けて人が歩き、結果的に大きくえぐれたような状態になってしまいます。

「北杜山守隊」代表理事の花谷泰広さん
スライドで紹介された甲斐駒ヶ岳の黒戸尾根の状態

 北杜山守隊ではトレイルの整備に“近自然工法”という手法を取り入れています。“近自然工法”とは、スイスで生まれた技術で、生態系の復元を目指し整備する方法です。本来の山の自然な状態へ戻すようなイメージで、えぐれた道に階段のように木を渡し、枝や枯れ葉を敷き詰めて道にしていきます。

 実際にトレイル保全活動に参加すると、自分たちで作った山道に愛着がわき、その後の様子が気になって何度も訪れる方が多いそうです。北杜山守隊では、保全作業をクリエイティブで楽しいアクティビティと捉え、有料のワークショップとしています。リピーターの方も多く、すぐに定員に達する人気のコンテンツになっているそうです。人手と資金の両方を確保できるこの考え方に、山田さんはぜひ奥信濃でも取り入れたいと感心されていました。

花谷泰広さん(左)と山田琢也さん(右)

●実際のワークショップ

 講演の翌日にはカヤの平高原にて実際にワークショップが行われました。北杜山守隊のパートナーである山栄建設 代表取締役社長の山部晋矢さんが講師を担当し、近自然工法の発想を用いた保全作業について学びました。

翌日実施されたフィールドでのワークショップ(撮影:一般社団法人木島平村観光振興局)

 山田さんは実際に行ってみると、イメージしていた近自然工法とは全く異なっていたと言います。その山の土壌や環境、植物が生きやすいかどうかなどによって、アプローチ方法が違うようです。

整備が行われた登山道(撮影:一般社団法人木島平村観光振興局)

 山田さんは、今回のワークショップを受けて、100 年先も美しい木島平村を存続させ皆で明るい未来を迎えるべく、楽しいアクティビティであることを発信しながら北杜山守隊を参考に組織を作り、持続するための資金調達をしながら保全活動を続けて行きたいと意気込みを話してくれました。